店主・榊原史子さんインタビュー

“ビクトリア湖の風”を日本へ

心がほどける場所をつくりたいという想い

―― お店を始めようと思ったきっかけを教えてください。
◆ 私自身、タンザニアに住んでいた時に思い通りにならないこともありましたが、ビクトリア湖の風に吹かれながら、美味しい料理を食べてビールを飲んでいると、とても幸せな気持ちになれました。その空間が私にとっての“心の回復場所”だったんです。日本の人たちにも、あの感覚を味わってもらえたらいいなと思ったのがきっかけです。

―― 実際にお店を開こうと思った瞬間はいつでしたか。
◆ 会社員をしながら何年もその思いを持ち続けていました。決断のきっかけは、姉が「一緒にやる」と言ってくれたことが大きかったです。そして後押ししてくれたのは偶然耳にした歌の歌詞でした。それはテレビで見た海外のオーディション番組で流れていた自作の曲。「あなたが夢を叶えることに『恐れ』をもっていないのなら、それは本当の夢じゃない」という言葉に、“私は今すごく怖がっている、だからこそこれは本当の夢なんだ”と心に刺さりました。

―― 60代での起業。迷いはありませんでしたか。

◆ もちろんありました。でも、会社員を長く続けてきたからこそ、ゆっくりと自分の中で夢を熟成できたと思います。

会社を引退するときには、同僚たちから「これからどうするの?」と聞かれて、「アフリカ料理店をやります」と宣言したんです。

その瞬間、自分の中での逃げ道が無くなりました。

“宣言したからにはやるしかない”と自分を追い込み、本格的に準備を始めました。

人生の後半をどう生きるかを考えたとき、自分で自分の居場所を作りたいという気持ちもありました。

―― 準備や運営の中で苦労したことはありましたか。
◆ まず、最初のチャレンジは飲食店をやる上で必要な資格や場所でした。飲食店をやるのは初めてだったので、どんな資格や許可が必要なのか教えていただいたり、調べたり。さらに、お店兼住居の場所を見つけるまでにもかなり時間がかかりました。区域によっては飲食店が開けない場所もあったり、もともとの造りが飲食向けでなければ利用するのが難しかったり。

それまで私は「行きたい場所にすぐ行ける」ように根を持たない生活が理想でしたが、セカンドキャリアを考える上では住居兼店舗が良いと思い、姉と一緒にそういう物件を探していました。六湛寺川沿いの駅近という理想的な立地に出会えたときは、「ここしかない」と感じました。

◆ また、特別に料理の勉強をしていたわけではないので自信がなくて、開店当初はなかなか宣伝ができず、いただいた胡蝶蘭もお店の外に出せませんでした。それでも、お客様が食べログやGoogleマップに口コミを書いてくださったり、西宮つーしんに載せていただいたり、KissPRESSが取材に来てくださったりと、ご縁がつながっていきました。本当にありがたかったです。

―― 店名「UPEPO(ウペポ)」にはどんな意味が込められていますか。
◆ スワヒリ語で“風”という意味です。タンザニアの人たちは焦らず、風に吹かれながら穏やかに生きています。その姿に触れて心がほどけていく感覚を、お店でも感じてもらえたらと思いました。候補には鳥とかカメレオンやハリネズミを意味する言葉もありましたが、最終的に“自由に吹く風”が、私にとって一番しっくりきました。ほっとする空間を象徴する言葉でもあります。

―― マルシェ出店と、お店を持つことの違いは何ですか。
◆ 一番の違いは、お客様と継続的につながれることです。お店があることで、タンザニアの文化や歴史を紹介する展示などもできますし、地域の方々に知ってもらうきっかけも増えました。それほど宣伝はできていないのですが、口コミで広がり、イベントにもつながりました。ご縁の力って本当に不思議です。

―― 60代でお店を始めて、どんな変化を感じていますか。
◆ 正直、大変です。でも今は“好きなことをやっている”という実感があります。精神的な疲れではなく、心地よい肉体の疲れ。顔つきが変わったね、と言われることもあります。セカンドキャリアとして挑戦して、本当によかったと感じています。

―― これからお店をどんなふうにしていきたいですか。
◆ いろんな方にいろんな理由で来ていただいて、「ほっとできる空間」でありたいと思っています。料理を楽しんでいただきながら、タンザニアの魅力を“美味しい”“素敵”“綺麗”という入り口から感じてもらえるようにしていきたいです。

―― これから挑戦する人たちに伝えたいことはありますか。
◆ 迷いがあっても失敗したら辞めたらいいくらいの気持ちで、まずはやってみてほしいと思います。私自身が迷いながら進んできたからこそ、そう伝えたいです。

同じ飲食店経営者の方に「やったからには1年は続けなさい」と言われたことがあります。1年やればひと通りのことが見えてくる。その上で続けるかどうかを判断すればいいと思います。

私の背中を押してくれた言葉をそのまま伝えると、「あ、これならできる」と思うことは本当の夢じゃない。「私なんかにできるかな」とビビってしまうことこそ、本当の夢です。怖いと思うからこそ、きっと挑戦する価値があると思います。


【Information】

UPEPO(ウペポ)
 スワヒリ語で「風」
兵庫県西宮市(六湛寺川沿い)
タンザニア料理とアフリカ雑貨のお店
InstagramGoogleマップにて営業情報発信中

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